そもそもどうやってサーバルームを冷やしているのか?(空冷空調の基礎)

T. Mogi

よく、水冷とか空冷とかという話しを耳にします。
以前、「サーバルーム空調は空冷と水冷のどちらが良いのか」という記事を書いたことがあり、反響をいただくことがありました。
ですが、よくお客様と打ち合わせや雑談をさせていただく中で、空冷の点で、そもそもどうやってサーバルームを冷やしているのかということについて、意外と曖昧になっておられる印象を受けるケースがあります。
カッコ書きで、空冷空調の基礎とありますが、冷やすという基本的な観点として、ヒートポンプについて、今回はお話ししたいと思います。

 

熱力学の第2法則

熱は熱いものから冷たいものへ移動するが、その逆は成立しない。
これが熱力学の第2法則です。
例えば、ひとつの器の真ん中の仕切り板があったとして、器の中に2つに分けて中身を入れられる場所があると仮定します。
1つに10℃の冷たい水を入れて、もう1つに90℃のお湯を入れます。
仕切り板を通じて、熱が移動するのは、あまり疑問に思わないですよね。
ただ、ここにはルールがあります。
必ず、高い温度から低い温度に熱が移動しますが、その逆にはなりません。
この不可逆的な現象のことを、熱力学の第2法則といいます。

サマライズすると、以下になりますね。
 〇:熱は高温から低温へ移動
 ×:熱は低温から高温へ移動

何もエネルギー消費せず、エアコンみたいな働きをするのは、不可能であると言っています。
寒い冬に、熱い風呂に何分も浸かり、風呂上がりに暖房の効いた部屋に出ましたが、汗がひかないので、窓を開けて冬の空気を入れてみるとします。
これはエネルギーを必要としないで、室内の熱気がただ外の空気と均一になろうとするだけです。
しかし、夏場の冷房は違います。
室外は35℃もあるのに、室内を25℃とかにしようとする場合、窓を開けるだけだと、ただただ暑いだけですよね。
この場合、室外に熱を捨てたいので、室内は温度を下げ、一方で室外機から熱い空気が屋外へ捨てます。
これは熱を低温から高温へ移す行為になるので、エネルギー消費をしないで、これを行なうのは無理なのです。
つまり、エネルギー(電気)を使うことによって、それを可能にしたのが、エアコンなのですね。

よって、自然界では熱力学の第2法則があるものの、それを可能にするのが空冷エアコンだという理解で良いかと思います。

 

ヒートポンプ

そこで、ヒートポンプという技術があります。
データセンターでもそうですが、ほとんどの家庭でも、エアコンが利用されますね。
基本的に空冷のエアコンでは、ヒートポンプを活用します。
エネルギーは電気が使われるケースが多いです。
中にはガスなどのエネルギーを使用するケースもありますが、ここでは簡単にするために、電気の話しをします。
電気をエネルギーにした、ヒートポンプの方式を「電気ヒートポンプ」と呼び、EHP(Electric Heat Pump)といいます。
室外機から熱い空気が屋外へ捨てられることを、電気ヒートポンプの技術を活用した冷房ということになります。
データセンターでは、IT機器から排出された熱を屋外に排出したいため、多くのデータセンターでは、CRAC(Computer Room Air Conditioning)を利用して、室内冷房をしています。

 

冷房サイクル

冷媒ガスといわれるものを利用して冷房するのがCRACの仕組みですが、冷媒ガスにもいろいろな種類や規制もあるので、ここでは難しい種類や規制には触れませんが、冷房を実現するための冷媒とご理解ください。
よく使用するのはR410aやR134やR32と呼ばれるガスです。
この冷媒ガスは特殊な性質をもっていて、空冷では必ず利用するといっても過言ではなく、圧力や温度に応じて、液化したり気化しながら、熱の搬送が可能になる性質をもっています。

 

出典:wikipedia_ヒートポンプ図を引用

 

この図は、ヒートポンプの仕組みを絵にしたものです。

それぞれに役割があるのですが、以下に簡単にしてみます。
1:凝縮器(コンデンサー)
 ファンで風を当てて、熱交換します。
 冷房では、この凝縮器は室外機の役目になっていて、熱を屋外に捨てる機能を持っています。
 圧縮機から送出された、高圧高温の冷媒ガスを熱交換させて排熱し、冷媒ガスを液化させています。
2:膨張弁(エキスパンションバルブ)
 高圧高温の液化された冷媒を、膨張させる役割を持っていて、高圧を低圧にさせると低温化されます。
 膨張弁を簡単にいうと、電車の自動改札口を想像するといいのですが、たくさんの人が出ていく改札機は、ひとりひとりでしたか出ることができないため、渋滞は起きますが、出たあとはスムーズな流れが形成されますね。
 膨張弁も同じで、高圧を低圧にさせることは、自動改札機と同じような役割になるといえます。
3:蒸発器(エバポレーター)
 ファンで風を当てて、熱交換します。
 冷房では、この蒸発器は室内機の役目です。
 低圧で液化された冷媒は、冷たくなる性質を持っていて、ここで室内環境(IT機器の熱)を熱交換させて、冷たい風を送ることになり、サーバルームを冷房させるのです。
4:圧縮機(コンプレッサー)
 低温低圧の液化冷媒を、圧縮して送り出す役割を持っています。
 圧縮すると、高圧高温になり、冷媒は液からガスに変化します。
 凝縮器に送り出すことによって、排熱を促すのですが、この圧縮機は車でいうエンジンと一緒で、一番仕事(エネルギー)を行なう部位となり、電気ヒートポンプ(EHP)では、一番電気エネルギーを必要とします。
 データセンターでは、室内機にも室外機のどちらかに設置されるものですが、この図では室外機にあるようにしています。
 専門略語的にいいますが、室内機に圧縮機を設置されている機種を中コン(室内を中と略して、コンプレッサーをコンと略して、中コン)、室外機に圧縮機を設置されている機種を外コン(室外を外と略して、コンプレッサーをコンと略して、外コン)といいます。

この一連のサイクルを「冷房サイクル」といいます。
さきほどの熱力学の第2法則で、不可逆的なという表現を用いましたが、これを「逆カルノーサイクル」とも呼びます。
ちょっと説明が長くなるので、理論的に最も効率の高い理想的な可逆熱力学サイクルであると定義されているものの、「ヒートポンプ」で意味は通じます。

 

さいごに

そもそもどうやってサーバルームを冷やしているのか?(空冷空調の基礎)と題しまして、ヒートポンプについてお話ししました。
空冷の空調では、このような技術を用いて、冷却を実現させています。
それぞれの室内機、室外機に圧縮機や凝縮器などの役割があり、ITの熱を建物の外に排出しているのは、テクノロジーが介在しています。
この知識は、一般的な家庭の空調もそうですし、データセンターでも大変応用がききます。
この機会に是非ご理解いただけると嬉しく思います。

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