インテリジェント・ケーブリング管理システムに今思うこと

K-Iwasaki

15~20年くらい前になりますが、インテリジェントにケーブリング(ネットワーク配線)を管理出来る製品の拡販に力を入れていた時期がありました。

いわゆるインテリジェント・パッチパネルとソフトウェアを連携させた製品(インテリジェント・ケーブリング管理システム)です。当時はまだデータセンターも今ほど密度も高くなく、まだ企業内サーバールームが主流の時代でした。クラウドもまだ存在していません。
その当時のサーバールームの役割はオフィスエリアのPC群に対しサービスを提供するものであり、そのためにサーバーと通信をさせる為のネットワーク配線がインフラチームの主要業務のひとつでした。

20年前のブーム

また、日本市場で見てみると、2000年初頭当時は外資系金融・証券が日本に続々と進出していた時期でもありました。特に証券会社では拡張やトレーダーの入れ替えに伴うケーブリング変更がほぼ毎週のように頻繁に行われていました。そのため、ケーブリング管理は彼らが事業継続していくうえで非常に重要な位置づけを占めていました。
そのような背景もあり誕生した「インテリジェントケーブリング管理」システムは、パッチコード配線をデータベースに自動的に登録する為、ケーブリング台帳登録の負荷軽減や人的入力ミスを防ぐツールとして一時期ブームになりました。

その頃、主に外資系のパッチパネルやケーブル製造メーカーを中心に各社はインテリジェント・パッチパネルやインテリジェント・パッチコード、そしてそれらを管理するソフトウェアを開発していました。
しかし、その自動接続認識の仕組みを成熟させるのはなかなか困難でした。あるメーカーはパッチコードにもう一芯を加え、プラグにプッシュ式プローブピンを埋め込み、一方パッチパネル側に設けられたセンサーと物理的に接触する事で接続を認識させる仕組みとしていました。またあるメーカーはパッチコード側にはなんら細工は施さず、パッチパネルのコネクター内部にマイクロスイッチを設け、プラグがポートに挿入されることで接続を認識する仕組みを考えました。他にもRFIDの仕組みを利用したり、各社はアイデアを競い合いました。

しかしどの技術も致命的な問題がありました。最も問題であったのはパッチパネル同士を繋ぐ「クロスコネクト」接続ではそこそこ機能を果たせたものの、パッチパネルとスイッチを繋ぐ「インターコネクト」接続環境ではいくつかの問題に直面しました。それはスイッチ側にはそもそもセンサーもマイクロスイッチも設けられていないからです。
そこでメーカーはスイッチに後付けできるセンサーストリップを作ったり(後付けされたセンサーが邪魔であった)、スイッチポートと繋ぐ時には独自の作法に従って作業しなければならないなどの対策を考えだしました。しかしそれらは全て、挙動や認識精度は不完全であり、また現場エンジニアの作業効率を落とすことにもなりかねませんでした。
そしてもっと重要な点は、非常に高価であったということです。性能をあまり考慮しなければ通常一本数百円から購入できるパッチコード(LANケーブル)は1000円を超える価格となり、パッチパネル側も然りです。
パッチコードに細工を施してある製品の場合、様々なメーカーのパッチコードを使うわけにもいかずベンダーロックインの声もユーザーから上がっていました。
他にも様々な問題があり、一時期のブームは収束し一部のユーザーのみが利用するニッチなソリューションとなりました。

2021年の今はどうか?今後の展望は?

インテリジェント・ケーブリング管理システムは現在どうなっているのでしょうか?2016年にISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)は、インテリジェントケーブリング管理システムをISO/IEC 18598:AIM(Automated Infrastructure Management)ととして国際規格化し、2021年には改訂版をリリースしました。
国際規格化されたことで、当初は各社バラバラであったコンセプトの一定の統一化は図られるものと考えます。
これは、ISO/IECのお墨付きを得たということでメーカーにとってはマーケティング的にプラスの要素となるでしょう。

一方、市場的に見るとどうでしょうか?現在のデータセンターは仮想化とクラウドへの移行が進み、20年前の頃と比較して物理結線の変更頻度は少なくなっているように思えます。また、物理配線の構成も従来のEoR(エンド・オブ・ロー)やMoR(ミドル・オブ・ロー)よりも、最近ではより高密度実装が可能なToR(トップ・オブ・ラック)が好まれる傾向があるようです。そのため、インテリジェント・ケーブリング管理の中核をなすパッチパネルは、ToRスイッチとコアスイッチを繋ぐ「変更されることの少ない」中継ポイントとしての役割に変化しました。パッチパネルを介した配線変更はこのことからも少なくなっていると思われます。

インテリジェント・ケーブリング管理システムがもちろん便利であることに変わりはありませんが、上記のようなトレンドの変化もあり、今後も引き続きニッチなニーズに対する高価なソリューションであり続けると私は考えます。
そして上記のトレンドを考慮すると、現在のデータセンターにおけるケーブリング管理、配線管理は手動登録・更新で十分マネージメントできるレベルであると考えます。しかし誤解してはいけませんが、「手動管理=エクセル管理」では決してありません。煩雑な配線管理の手間を減らし、入力ミスなどの人的ミスを抑え、可視性を高め、効率的に運用を回していくためにはやはり充実した配線管理機能を持つDCIMツールは必ず必要となります。


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